ロング・グッドバイ 東京堂模型
いずれまた会えるさ、ありがとね。
クリスマスも終わって仕事が一段落ついたところに、ある噂が飛び込んで来た。
以前取材させていただいた東京堂が閉店するらしい。 マジか。
マジか
店へ向かうとテントに貼られた風にはためく閉店セールの紙
マジだった…。
カラカラカラ…
「マジ?」
「はい」
「マジかよ…」
「60年皆様に支えていただき誠にありがとうございました。」
「辞めるのを辞めるって心変わりしない?」
「はい。もう86歳にもなりますし、年齢的体力的にも持たなくなってきましたね」
「そうですか。60年営業お疲れ様でした グスン」
「今ある商品を30%引きで売り切ってしまって、ケースに展示されている模型を元の持ち主様にお返しする作業を終えると来年2月に閉店しようかなと思っています。」
「ウェッ 売れないでくれ ウッエ…」
この引き戸も何人のお客さんを迎え入れたんだろうか、俺は5000回は開けたよ。
この小気味よくカラカラカラって軽く開けれた戸が好きなんだ。
この入口からの絶景が一望できる風景が大好きなんだ。右には塗料、左には車、奥には戦車模型がいる
俺はこの入口を500000回は踏みしめたね。
この戦艦達も東京の持ち主に返されるそうな お役目ご苦労様でした。
見上げてた塗料ビンの棚もいつしか見下ろすようになってしまったな。
お前たちもケンカをやめてアクシズへ帰っていくんだろ?
60年間お疲れ様でした。ありがとうございました。
こういうのっていつも店を利用してなくて、閉店するとなると残念だーって騒ぐアレだろ?と聞かれると、そうだとしか答えるしかありません。
この店は自分にとって灯台のような店だったんです。この前10年ぶりにふらっと訪れて「うん。」って感じでプラモを買って帰ったんですよね
この「うん。」って感慨は「あと10年大丈夫だな」って感慨だったんですよ。お店は綺麗だし店主も元気、新製品も置いてあるしもう10年後にこの灯台にふらっと立ち寄るかって気持ちだった。
別れというものは突然である。 閉店を決断されたのはほんのこの前だったそうだ。
中一の頃、院隠滅滅としていて不登校気味だった自分が友達に連れられてこの店に足を踏み入れた瞬間、塗料のシンナー臭さが鼻に入ってきて頭の中でバチバチと弾けてビッグバンが起きたんだ。
自分の好きな物を手に取って愛でていると他人からオタクだと茶化されたクソみたいな中学生時代に、趣味に貪欲に生きていいんだという革命的なビッグバン。
それまでウジウジと悩んでいた自分がぶっ殺されて、新しい自分に転生したかのような気分だった。
宇宙を生み出したビッグバンが今も宇宙を拡張し続けているように、私も東京堂から受け取った感動をブログSNSを通して人に伝播していきたいですね。
形があるものはいつか無くなる、この世に永遠に存在し続けるものは無い しかし人の記憶にあの店が遺る限り、僕らが模型の楽しさを語り継ぐ限りあの店は永遠の存在になるんだと思う。
もう一度言っておこうかな、60年間お疲れ様でした。本当にありがとうございました。
●場所 東京堂模型店
〒567-0883 大阪府茨木市大手町9−13 泉ビル 1F
アクセス 阪急茨木市駅より徒歩8分
地図 Google マップ
■追記
以前の記事を投稿したところ、東京堂のかつての常連さんとお会いできました。
4色のランナーが1つになっているフミナの眼のランナーを見て二人ですげぇ…と感心しました。